お米と糖尿病
2014年6月4日
コメの栽培は約8000~9000年前の中国長江流域に起源を持つそうで、数千年かけてアジア各国に伝来し、現在までコメは日本を含むアジア人の主食となっています。日本の食文化の中心であるコメ、特に精白米の摂取が、糖尿病発症と関連するという日本人での疫学調査が4年前に発表され物議を醸しました。中国人女性を対象とした研究でも同様の結果が発表されており、また白米のような消化の早い炭水化物の摂取過剰が糖尿病発症を増やすという研究は以前からあるため、白米摂取と糖尿病との関連は真実味を帯びてきています。しかし糖質制限や低炭水化物ダイエットといった極端に走るにはまだ十分な根拠がないことを、3つの点から論じてみたいと思います。
1つめは運動量とのかねあいです。研究では6万人近くの日本人を白米の摂取量によって4群に分け、多い群ほど5年後の糖尿病発症が多くなりました。ただし関連がはっきりみられたのは身体活動量の少ない男女においてであり、筋肉労働やスポーツを一日1時間以上する人ではみられていません。つまり運動量が多い人では白米摂取が多くても糖尿病の危険は増さないと言えます。実際の摂取量は最も多いグループでも男性で一日当たり約700g(2.1合)、女性では約560g(1.7合)程度でした。白米の適切な摂取を決めるには運動量というエネルギーの消費とのバランスを勘案する必要があると言えるでしょう。
2つめは肥満とのかねあいです。意外にも白米摂取で糖尿病が増えたのは非肥満者でした。非肥満者は肥満者に比べてインスリンという血糖を下げるホルモンの分泌が少なかったり、筋肉や脂肪といったインスリンが作用して血糖を取り込むスペースが少ないことがあります。これらの人たちが過剰に糖質を摂取すると血糖の取り込みが遅れて血液中にあふれ糖尿病になるというしくみが考えられます。肥満の有無、それと並行するインスリン分泌や作用の個人差によっても適切な白米摂取量は異なるでしょう。例えば人間ドックでの糖負荷試験で糖水を飲んだ後の血糖が上昇する人は肥満がなくてもインスリンの作用に遅れがあり、白米に偏った食事は食後高血糖を起こす可能性があります。タンパク質や脂肪も混ぜて摂った方が消化がゆっくりになり、筋肉量を維持することでインスリンの作用もよくなるでしょう。
3つめは何を目標に治療するかということです。糖尿病発症予防を目標とすると白米摂取は控えるべきかもしれません。しかし白米摂取制限で総エネルギーが不足し痩せてしまうと、特に高齢期で骨粗鬆症、肺炎などによる衰弱や死亡を増やします。総エネルギーを保ちながら白米摂取制限を行うと当然おかずが増えますから脂質、蛋白質、また塩分摂取が増えます。動物性蛋白の過剰摂取と大腸癌、塩分摂取と高血圧の関連はすでに複数の科学的根拠があります。幸い現代は糖尿病を持っていてもきちんと治療を受ければ心血管病はかなり予防できる時代になってきました。治療の目標は糖尿病発症予防でなく、糖尿病があっても元気で自立した状態で寿命をまっとうできることにシフトしてもよいのではないでしょうか。
「一日玄米4合と味噌と少しの野菜を食べていた」明治時代の農民からみるとはるかに身体活動量は減り、豊富な食べ物が簡単に手に入るようになった日本人。平均寿命も20年以上延びました。延びた分の人生を健やかに過ごすことを目標として、個々人の運動量と肥満度にあった食事をアドバイスできたらと思います。ともすれば画一的な指導になりがちな人間ドックにおいて、そのための努力を続けていきたいと思います。
北陸中央病院 第二内科医長 大家 理恵
福利とやま(平成26年5月号)掲載