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空腹時血糖値と糖尿病発症

2019年4月1日


 空腹時血糖値の基準値が2008年に改定され、正常域の上限が110mg/dLから100mg/dLに引き下げられました。これを受けて、本院の人間ドックの基準値では100-109mg/dLをB判定(日本糖尿病学会では「正常高値」という)
、110-125mg/dLをC判定(日本糖尿病学会では「境界型」という)としました。
 この判定について、糖尿病発症についての理解を深めるためのデータをお示しします。


空腹時血糖値100mg/dL以上の方はこんなにも存在する!


本院の人間ドックの男性受診者の空腹時血糖値の分布を示します。対象の年齢は45±5.9歳(平均±標準偏差)でした。男性では110以上126mg/dL未満の境界型は全体の6.3%(紫色の枠内)、正常型の中でも100以上110mg/dL未満の方(正常高値)は18.3%(赤色の枠内)でした。一方、女性ではそれぞれ、2.6%(境界型)(紫色の枠内)、9.6%(正常高値)(赤色の枠内)でした。

空腹時血糖値で100mg/dL 以上の方は、男性の28%(3~4人に1人)、女性の13%(8人に1人)が該当します。つまり、現在の空腹時血糖値でB判定以上が出るということは、それほど珍しいことではありません。


男性の空腹時血糖値分布

男性の空腹時血糖値分布

女性の空腹時血糖値分布

女性の空腹時血糖値分布


正常高値者の15人に1人が、境界型の4人に1人が5年後に糖尿病を発症する


次に境界型と正常高値であった方々の中のどれぐらいの方が、5年後までに糖尿病を発症するのか調べてみました。空腹時血糖値区分別にみると、正常型で16人(0.5 %)、正常高値で40人(6.5 %)、境界型では53人(28.2 %)の方が糖尿病を発症しました。正常高値者の15人に1人が、また境界型の4人に1人が、5年後に糖尿病を発症することを示しました。



B判定(100-109mg/dL;正常高値)となっても5年後までに糖尿病をするのは15人のうちの1人、C判定(110-125mg/dL;境界型)のうちの4人に1人です。


ALT(GPT)と糖尿病発症の関係


我々は、どんな要因が糖尿病発症に関係するのか検討しました。その中でALTとBMIが糖尿病発症と強い関連を示しました。

まず、ALTと糖尿病発症について検討しました。
ALTは肝臓に多く含まれている酵素ですが、ALTを16U/L未満、16以上25U/L未満、25U/L以上の3群に分類し、違いがあるか検討したのです。すると、正常型と境界型において、16未満と比較すると16以上25(U/L)未満、25(U/L)以上は、糖尿病発症が高い傾向を見出しました。


糖尿病発症とALTの関係

糖尿病発症とALTの関係


BMIと糖尿病発症の関係


BMIと糖尿病発症についても検討しました。BMIはアジア人のWHO分類に基づいて、23kg/m2未満、23以上27.5kg/m2未満、27.5kg/m2以上の3群で検討しました。すると、正常型と正常高値で、BMIが27.5kg/m2以上の方は糖尿病発症が高い傾向を見出しました。境界型ではBMIによる違いは見出せませんでした。


糖尿病発症とBMI

糖尿病発症とBMI


肥満者が糖尿病を発症しやすいということは周知のことですが、今回はそれを確認することになりました。


まとめ


今回は本院の人間ドックの5年間の追跡調査の結果を示しました。
空腹時血糖値が100以上110mg/dL未満の15人に1人が、空腹時血糖値が110以上126mg/dL未満の4人に1人が5年後に糖尿病を発症したのです。

これらの結果を参考に、空腹時血糖値が100mg/dLを超えても、将来糖尿病を発症しないように取り組んでいきましょう!


この結果はこの論文を抜粋したものです


Diabetes Progression from “High-Normal” Glucose in School Teachers
Moriuchi T, Oka R, Yagi K, Miyamoto S, Nomura H, Yamagishi M, Mabuchi H,
Kobayashi J, Koizumi J.
 Internal Medicine Vol. 49 (2010) , No. 13 1271頁~1276頁 2010年7月1日掲載